たった1mgで命の危機!フグの猛毒テトロドトキシンとその食中毒

こんにちは!
幼少期からの魚好きをこじらせて、気づけば大学でも学んでいたお魚大好き女子大生の鈴木ひらです。

みなさんは、フグと聞いてどんなことが思い浮かびますか?
山口県の有名な高級魚、プクプクとした体にひらひらしたヒレのついた愛らしい魚、釣り餌取りの名人…人によって様々かもしれませんが、共通するイメージは、強い毒を持つことではないでしょうか。

フグはトラフグなどが食用とされていますが、きちんと処理をしないで食べると食中毒を起こしてしまいます。

そんな美味しいけど危険を伴う、フグの毒について解説していきます!

フグ毒とは?

フグ毒の正体は、「テトロドトキシン」という物質です。
「テトロド」はフグ科(学名:Tetraodontidae)を指し、「トキシン」は英語で毒(toxin)を指します。
そのまんま「フグ毒」という意味の物質名なんです。

小さめの分子なのですが、青酸カリのおよそ850倍と言われる猛毒です。
人における致死量は約1~2mgと、ほんの少し摂取しただけでも危険な物質です。

テトロドトキシンは神経毒で、体内に入ると、神経や筋肉などの細胞に存在するナトリウムチャネルの働きが阻害され、神経伝達が遮断されてしまいます。
これによって感覚異常や麻痺といった症状が生じ、呼吸麻痺まで進行すると死に至る場合もあります。

フグ毒中毒について

症状

フグ毒中毒の主な症状は麻痺です。

消化管で吸収されやすいので、摂取から30分~4時間程度という短時間で、唇や舌、指先の痺れといった感覚異常、頭痛や腹痛、嘔吐などの症状が現れます。
軽症の場合はこれでおさまりますが、進行すると四肢の痺れや運動失調、言語障害などの症状が出てきます。
重症化すると、呼吸麻痺によって窒息死に至ります。

フグ毒中毒は経過が早いので、摂取から約8時間という短時間で死んでしまう恐れがあるのが怖いところです。

治療法

フグ毒に解毒剤はありません。
そのため摂取してしまった場合、基本的には体外に排出することしか対策はありません。

しかし、フグ毒による死亡は呼吸障害が原因なので、毒が体外に排出されるまでの間、人工呼吸器によって呼吸を補うことができれば、救命が可能です。

発生状況

フグ毒の危険性が広く知られ、規制が設けられている現在でも、年間約20件ほどのフグ毒中毒が発生しています。
場合によっては死者も出ており、依然として問題になっています。

表1:全国のフグ毒中毒の発生状況

年度発生件数患者数死者数
200924 500
201027340
201117211
201214180
201316210
201427331
201529461
201617310
201719220
201814190
201915181
厚生労働省「食中毒統計資料」より作成

フグはどこに、どうして毒を持つのか?

有毒部位

フグの有毒部位は、種類によって違います。(表2)

毒の強さも海域や季節によって異なり、個体差も大きいのが特徴です。

そのため、一度有毒部位を食べて、たまたま中毒を起こさなかった場合、「次も大丈夫だろう」「この部位は無毒だ」といった勘違いが生じてしまう恐れがあるのです。
これが、なかなかフグ毒中毒がなくならないことの一因かもしれませんね。

フグの有毒部位に手を出す行為は、極めて不利なギャンブルなので、絶対にやめましょう。

表2:様々なフグの有毒部位

卵巣精巣肝臓皮膚筋肉
クサフグ 
コモンフグ
ヒガンフグ×
ショウサイフグ×
マフグ××
カラス---
メフグ××
アカメフグ××
ナシフグ××
トラフグ×××
シマフグ×××
ゴマフグ××
サンサイフグ
ドクサバフグ×××
カナフグ××××
シロサバフグ×××××
クロサバフグ×××××
ヨリトフグ×××××
糸井史朗(2018)「テトロドトキシンの生物学的意義とフグ毒中毒」, 『食の安全・安心にかかわる最近の話題』64(7), p243, 表2の一部を抜粋
* ●>1000MU/g(猛毒)、◎100~1000MU/g(強毒)、○10~100MU/g(弱毒)、×<10MU/g、-データなし

毒を持つ理由

そもそもフグはどうして毒を持っているのでしょう?

外敵から身を守るためでしょうか?
確かにクサフグなどは、襲われそうになると皮膚から毒を出して逃げます。
でも表2を見てみると、内臓に毒を持っていても、皮膚には毒がないトラフグなんかもいますね。
これでは、毒を持っていると気づかれずにパクリと食べられてしまいます。捕食者が毒に気付いた時には、もう胃の中だった!なんてことでは後の祭りです。

実は、フグ毒は単に身を守るためだけではなく、フェロモンとしての役割も果たしていると言われています!
フグはフグ毒を嗅覚で感知して、匂いのする方へ引き寄せられるという性質があるそうです。
このようにして、フグは産卵の際などに一斉に集合しているのではないかと考えられています。

この他にも、子供の身を守ってあげるため、という理由も示唆されているんです。
表2を見てみると、肝臓と卵巣に毒を持つフグがたくさんいますよね。
これは、全身に散らばっているフグ毒を、一旦肝臓に集めて、卵巣に移行させているのだと考えられています。
こうすることで、赤ちゃんフグはお母さんから受け継いだフグ毒を皮膚に持って、全身をガードすることができるんです!
実は、先ほど皮膚が無毒だと紹介したトラフグも、まだ体の弱い子供のうちは、皮膚に毒を持って身を守っています。
我々にとっては厄介なフグ毒も、親が子を守るための策だと思うと、なんだか見方が変わってきますね~

毒化のメカニズム

ここまでフグ毒フグ毒と言ってきましたが、フグが自分で作り出しているわけではないんです!
ではフグはどのようにして毒を得るのでしょうか?
実は、そのメカニズムはまだよく分かっていません

基本的には、テトロドトキシンがある種の細菌によって生産され、これが食物連鎖を通してフグの体に蓄積されることで毒化すると考えられています。
実際に、生まれたてのフグにテトロドトキシンを含まない餌を与えて育てると、無毒のフグを作り出せます。

一方、細菌が生産するテトロドトキシンは非常に少なく、これだけではフグの持つ膨大な毒の量を説明できない、という指摘もあります。

他にも、テトロドトキシンを生産する細菌を腸内に生息させているのではないか、他のフグの卵を食べることによって多量の毒を摂取しているのではないか、といった説がありますが、まだまだ詳細は謎のままです。

近年、養殖してできた無毒トラフグの肝を食用にしようという試みがありますが、なかなか許可が下りないようです。
これは、毒化機構が解明されておらず、絶対に安全だという確証がないためです。
幻のフグの肝が食べられるようになるかもしれないその日まで、今後の研究成果に期待しましょう!

フグにフグ毒は効かない?

フグが外から毒を摂取していると聞いて、不思議に思った方もいるかもしれません。
そう、フグはなぜ自分の毒で死なないのでしょうか?

厳密には、フグはフグ毒が効かないのではなく、他の魚や生物と比較して著しく強い耐性を持っているので、ある程度の量までなら耐えられるのです。

これは、神経や筋肉の細胞にあるナトリウムチャネルという膜タンパク質が、他の生物とは異なる構造をしており、テトロドトキシンが作用しにくいためだと言われています。
他にも、フグの筋肉細胞には、テトロドトキシンと結合しやすい、ナトリウムチャネル以外の膜タンパク質が存在し、これが代わりに結合してくれることで、神経伝達に異常が起きにくくなっているのではないか、という説もあります。

まとめ

まだまだ謎が多く、得体の知れない怖さのあるフグ毒についてでした。

とても美味しいお魚ですが、毒には本当に気をつけなければいけませんね…
ぜひ、資格を持った専門の調理師さんのいるお店で、安全にフグを堪能してください!

それでは、素敵なお魚ライフを〜

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